飼育観察

熱帯魚も海洋生物も長期間飼育させるポイントは、いかに水質を維持するかです。




ニホンザリガニ
Cambaroides japonicus

ニホンザリガニの生態の詳細は「北海道生物図鑑」の方に記載してあります。

低水温を好み、高水温に弱いので飼育は難しい。
アメリカザリガニのような飼育をすると失敗する。

低水温を維持するには「水槽用のクーラー」があり、設定水温が18〜30℃なのであるとかなり便利で飼育も楽だが高価で電気代もかかる。しかも水槽用クーラーを使用すると室温が上昇し、作動音もうるさいという難点も・・・
室内用クーラーを点けっぱなしにするのも不経済。
冷蔵庫での飼育は、観察がしづらい上、酸欠のおそれがあったり良い結果が得られた事がない。
そこで、「低水温を維持しつつ、小規模で経済的に飼育できる方法」を考え、実践していこうと試行錯誤してみた。
生息環境にできるだけ近づけるようにも工夫する。
やや手間がかかるのが問題であるが、下記方法で危険な夏期を乗り切れることができ、なんとか長期飼育はできている。
(ただし、夏季が涼しい北海道での飼育で、本州以南では不向きと思われる)

※ ここではニホンザリガニの捕獲・購入・飼育を奨励しているわけではありません。



採集
生息場所は山地周辺から湧水がわずかに流れる沢で、特に下草や広葉樹が生い茂っている場所に多い。
水温が低く、きれいな水質の湖にも生息するが、水量が豊富で流れの速い河川は生息地として適さない。
周年同じ生息地にいるが、5〜10月の積雪のない時期の方が容易に採集できる。

4月 砂礫の奥に潜んでいるため、見つけるには深く掘らなくてはいけない。
表層には小型が目立つ。
5〜6月 抱卵個体♀が見られる。
7〜8月 普通に見つけることができるが、ブユやヤブカに悩まされる。
9〜10月 交接のためか活発的になり、砂礫の表層に多くなるため大型の個体も見つけやすい。
交接済個体♀が採集できる。
春に生まれた小さな個体も多い。
11〜3月 積雪のため、採集困難


写真1

写真2
水量が少なく礫の多い生息地(写真1)では、石や倒木片の下に隠れているので3〜4本の爪がある片手鍬があると便利。
礫の少ない沢(写真2)では、落ち葉などの堆積物の下や、沢脇に巣穴を掘って潜んでいることが多い。

生息地は藪やぬかるみで足場が悪い場所もあるので、ゴム長靴は必須。
環境的にヤブカやブユが多く、イラクサも自生しているので、なるべく肌を露出しない服装をする。
※ 採集の際、環境のダメージを最小限にすること。

採集する個体は最小限に留め、高温と酸欠に注意して移送する。
(例:クーラーボックスと保冷材)



飼育

飼育水槽 45cm×30cm×32cmガラス水槽
濾過装置 外部式フィルター
(エーハイムクラシックフィルター2211)
床材 砂・小石(現地採取)・流木
照明 なし
水換え 一週間に一度で半分程度交換

数本の流木を組み合わせて、ザリガニの隠れ場を多く確保できるようにしてある。

水流を抑えているため循環が不十分で床材が腐敗する可能性があるので、床材(砂・小石)の厚さは1〜2cm程と浅めに敷いている。水位は10cmくらい。

レイアウトや水質維持目的で水草を配置したいところだが、ザリガニが食べたり、掘り起こしてしまうので必要なし。

照明は特に必要なし。熱帯魚飼育などで使用される照明はザリガニには強く、落ち着きが無くなる。

ザリガニは流木の下に穴を掘って隠れることができ、自然に近い状態で飼育できるのがこの飼育方法の長点。
この飼育環境にしてから、各個体は落ち着き、脱走を試みるようなことは少なくなった。

交接目的以外は、脱皮後の共食い防止のため、セパレーターで区切り個別飼育している。

温度管理

 水温は20℃以下の低温を保つ
飼育水槽全体を保冷シートで覆い、保冷材を入れ低水温(15〜20℃)を長時間維持できるような工夫をしてみた。
ある程度、保冷シートの効果はあるように思える。
保冷材の交換は夏季では1日に1〜2回程度、冬季は5日に1回程度。
この飼育方法は、高温の日には保冷材を頻繁に交換するので、頻繁に数日家を空けるような人にはお勧めできない。
一時的なら20〜25℃でも生きているが、長時間その状況が続くと問題あり。
水質管理

 水質を悪化させない
水量:水がわずかに染み出している沢に生息しているので水量は少なくてもいいが、水質維持が難しくなるため、やや多めにする。
水流:強くする必要はないが、水質維持のために軽いエアレーションまたは軽い水流をしたほうがよい。
※ ザリガニが死ぬと、数時間で腐敗して悪臭を放ち、水質を著しく悪化させるので要注意。

 水交換時の急激な水質の変化に注意
水換えは頻繁に交換するのが望ましいが、急激な水質・水温の変化に弱いので注意。
(緩やかな変化にはある程度耐えることができる)
※ ザリガニの体に白い粉がふいたような状態になったら体調を崩した状態で、重症だと衰弱して死に至る。
短い間隔で脱皮してしまう場合も水質が悪いと思われる。
その他

 脱皮後の共食いに注意
どんなに良い環境で飼育していても注意しなくてはならないのは、複数飼育での「脱皮後の共食い」。
脱皮後は体が軟らかいため他の個体に狙われる危険がある。
予防として、石や流木などを置いて隠れられる場所を増やす方法もあるが確実ではない。
脱皮の兆候が見られる個体または脱皮してある程度体が硬くなってきた個体を見つけたら、別容器に隔離する方法もあるが、脱皮中や脱皮直後の個体を捕まえたりすると脱皮失敗や変形してしまうのでお勧めできない。
(脱皮後、完全に体が硬くなるまで3日ほど掛かる)
単独飼育かセパレーターで隔離する方法が一番安全。

 脱走注意
水槽にしっかりと蓋をしたり、ホースの設置を工夫して、上って来れない環境作りをしなくてはいけない。
夜行性なので脱走は主に夜に行われる。発見時にはすでに干乾びていたという事故は未然に防ぎたいところ。
頻繁に脱走したり、絶えず水槽内をうろうろして落ち着きのない個体がいる場合、「水温、水質の異常」、「水流が強い」、「過密飼育によるストレス」、「落ち着ける隠れ場がない」など飼育環境の問題が考えられる。

※ 砂は脱皮の際に必要だが、なくても問題はないらしい。ただストレスのかけない飼育をするには必要と思われる。


給餌

餌は、冷凍アカムシや市販のザリガニの餌も食べるが、アメリカザリガニより草食傾向にあるので、それに考慮した給餌をする。
植物性が強いといっても、動く動物質の餌(ミミズや水生昆虫)の方が食い付きは良い。
同じ餌ばかり与えていると拒食するという話があるが、個人的に経験がない。

「プレコの餌」 プレコ(熱帯魚)の餌で植物質が豊富。
個体の大きさに合わせて、砕いて与えた方が良い。
これを主体に与えている。
「ザリガニの餌」 市販のザリガニの餌。
種類は多いが、特にこだわりはなし。普通に食べてくれる。
「落ち葉」 サクラの葉を水に数日浸して軟らかくなったものを与える。
餌としては餌付きもよく最適だが、飼育水が汚れ腐敗しやすく、外部式フィルターのホース内が汚れで詰まりやすくなり循環(ろ過)能力が低下するのが難点。
「冷凍アカムシ」 普通に食べるが、浮いたり拡散したりと使い勝手が悪い。
「イトメ」 動きのあるものは好奇心をくすぐるのか、よく食べる。
「脱皮直後の個体」 美味しいのか、栄養が豊富なのか分からないが、どんな餌より食い付きが良い。
脱皮直後は格好の餌となるので、複数飼いの場合は十分注意。


繁殖

繁殖をさせたいなら、水温を調節して季節感を出すことが必要と思われる。
交接は水温が低下する秋に行われるため、促進させるには夏場の平均水温より5〜10℃度下げる。
成熟した雌は、水温が下がり、卵巣の発達すると尾肢や腹側板の腹側が乳白色になる「セメント腺」は繁殖可能の目安となる。
交接後の雌の受精嚢の表面には、雄から渡された精胞が付着する。
そして2〜3月頃に雌は産卵し、春〜初夏にかけてが抱卵期間となる。
卵は雌の腹肢と繋がっており、雌が単独で保護するので、産卵後は単独飼育が望ましい。
孵化した幼体は、しばらくは雌が保護しているが、自由行動をとるようになると共食いが起きるのでそれぞれ隔離する。


飼育記録
<脱皮殻>
飼育下では死んでしまったと勘違いして驚かされる。

<脱皮殻標本>
きれいに脱いでくれるので、組み合わせると標本にもなる。


<サクラの葉を食べる>

<セメント腺が発達した雌>
成熟した雌は、卵巣の発達する時期(10〜12月)になると尾肢や腹側板の腹側が乳白色になる。これをセメント腺という。

<交接>
雄が下、雌が上になって正対姿勢(腹部を向かい合わせた形)で交接を行う。
雌は交接後、精包を体内に蓄えたまま越冬し、翌春産卵し受精する。

@:雄は雌を仰向けにさせ、尾部をつかんでいる。
この時、雌は恍惚状態にあるのか、死んだように動かない。

A:しばらく@の状態が続いた後、雄は雌を元に戻しつつ、引きずり込んで重なるような体勢になる。

B:そのまま回転し、雄が下、雌が上となり、交接体勢となる。
数時間この体勢が続く→終了
<交接後、雌に付着した精胞>
(写真下の矢印部分)


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