飼育観察

採集〜飼育するなら繁殖(累代飼育)に挑戦することが、その生態を知る一番の近道



ミズグモ
Argyroneta aquatica
水中生活をする唯一のクモ。
北海道には平地の湿原に生息するが、分布は極めて局地的。

ミズグモの生態の詳細はこちら



採集

水草やミズゴケ、スゲなどが豊富に生える池や沼、湿地に生息。
この生息地では、ヤチウグイ、エゾホトケなどの魚類、(ナミ)ゲンゴロウやヤゴなどの水棲生物が豊富に見られる。
生息地は水深が深い場所もあるので、長靴よりもウェーダーの着用が望ましい。
また夏〜秋(特に秋)は蚊が大量に発生するので、十分に対策をしないと採集どころではなくなる。



水深は30cm程の浅い場所で、スゲが密生する場所に多い。
網は根元からしごくような感じでゆっくりと掬うのが採集のコツ。
狭い範囲にまとまって生息している傾向があるので、1個体を確認できれば付近に複数いる可能性が高い。
魚が多い場所は少ないが、ゲンゴロウやヤゴの個体数にはあまり影響を受けないように思われる。
春先は子グモ(未熟個体)が多く、夏になると成体が増える。

生息地には草原性のクモ(中には一時的に水中に潜るクモもいる)も生息していて、しばしば網に入ることがあり紛らわしいが、ミズグモは動きが緩慢で腹部に短毛が密生していることで区別できる。

採集の際、網に入ったヨコエビやミズムシを餌として持ち帰ると良い。
(ただしヒルや小さくてもヤゴは厳禁)


飼育環境
飼育水槽 17×17×17cmプラスチック水槽
濾過装置 エアレーションのみ
床材など 水苔
スゲ(現地採取)
水草
照明 なし
水換え 特になし
<飼育水槽>
水位は水槽の6〜7割程度で、稀にエアポンプのチューブを上って脱走することがあるので蓋は必要。
水中にミズゴケやスゲを全体的に沈めることで、ミズグモの自由な水中移動空間を確保。
(あまり入れすぎると観察しづらくなるので程々に)
また一部水面から出すことで、乾燥(甲羅干し)させることができる。
※ ゲンゴロウ同様、甲羅干しはミズグモにとって必要な行為といわれている。

<水温・水質>
北方系の生物なので低水温が望ましいが、夏場に25℃を越えても問題はなかった。
水質に関しては、淀んだ止水域に生息しているので、頻繁に水交換をしなくてもいいと考えるが、水質維持のために軽くエアレーションをしている。


生息地の湿地環境を再現した作りにしてみた。


給餌
クモは動いているものでないと捕食しないので、生餌を常に確保しなくてはいけない。

「活イトメ」
熱帯魚店で購入できる生餌。
低水温維持とエアレーション、泥(腐植物)を入れておくと長期間生かせることが可能。

「ヨコエビ」 河川や池沼に生息する甲殻類。
石の下や堆積した落葉内にいるので、網で捕獲できる。
殻が硬めで、動きが早いので、餌としてミズムシより劣る。
「ミズムシ」 富栄養性の河川や池沼に生息するワラジムシに似た甲殻類。
ヨコエビ同様、石の下や堆積した落葉内にいるので、網で捕獲できる。
ヨコエビより動きが緩慢なので、ミズグモが捕食しやすいと思われる。




飼育記録

撮影日:2010/5/9

成体
全体的に体色は黒色で、頭胸部は赤色となる。
頭胸部裏側と腹部には細かな毛が密生しており、これが空気の膜を形成するため水中でも活動することができる。
ただし、定期的に水面に出るか空気室で空気を入れ替えることが必要で、水面から腹部を出している姿を飼育中でも観察できる。

交尾〜産卵後、しばらくすると衰弱して死ぬ。
寿命は推定1年。


空気室
糸で袋状の巣を作成しその中に空気を溜め込む。
普段の住居として利用し、脱皮・交尾・産卵も室内で行う。

廃棄された空気室内を確認すると、脱皮殻が入っていることが多かった。


捕食
普通捕獲した餌は空気室内に持ち帰り、そこで食べるが、空気室がないときは写真のように水面から口を出して食事することもある。
写真の個体はイトメを捕食中。

撮影日:2010/9/11

卵嚢
空気室内に作られた卵嚢。
卵嚢は普通の空気室と比べ、厚く丈夫な作りとなっている。



卵嚢内にはたくさんの卵が詰まっている。
色は瑞々しい黄色。

撮影日:2010/10/17

未熟個体(稚グモ)
孵化直後の個体。
全体的に体色は淡灰色で腹部は淡黄色。
すでに腹部には毛が密生しており、空気の膜を形成することができるが、まだ水中生活に適応していないため、卵嚢から強制的に出すと溺死してしまうことが多い。

しばらく卵嚢内で過ごした後、水中生活に入ると思われる。

写真個体の体長は約1mm

撮影日:2010/9/11

未熟個体(子グモ)
全体的に体色は淡灰色。
この大きさに成長すると、小さいが空気室を作ることができる。

写真個体の体長は約3mm

撮影日:2010/5/21
未熟個体
ある程度成長すると全体的に体色は淡橙色となる。
体色が異なるだけで、成体と特に変わったことはない。

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